森脇 正
司馬遼太郎著「最後の将軍」の冒頭は「人の生涯は、ときに小説に似ている。主題がある。」で始まる。関心があるのは、人の生涯には主題があるということ、すなわち、私に主題があるかという自分への問いである。
弁護士になって早30年、過日、ある会社の社内誌に載せるとの要請でインタビューに応じた。「・・・司法試験に合格し、弁護士の道を選んだとき、私には一つ心に期するものがありました。それは人の手がけていない分野を扱う弁護士になるということです。私が弁護士資格を取った昭和52年(1977年)当時、医療事故に関心を持っている弁護士は、岡山ではほとんどゼロという状態でした。私自身、大病を得、医療のお世話になった過去があり、医学に関心を持ったことがきっかけですが、医療をめぐるテーマは、岡山のみならず全国的に共通する広がりをもつ性格のものであるとの判断が働いて、そこにやりがいを感じたのです。・・・」という弁護士として主題を持ったことをお話しした。
私が、仕事の主題を得たことは、勿論小説にはならないにしても、有り難いことであった。仕事の主題は、時代により変遷、発展があるものの、普遍的な価値があるものとして、次世代に継承していきたいものである。
大江健三郎は、60歳の時「燃えあがる緑の木」三部作を書き終えて創作活動の終止符をうち、人生の締めくくりをしたいと述べた。三島由紀夫は「豊饒の海」四部作を書き上げ自己の生を完結した。大江は二年後に執筆活動を再開し、三島にはそれがない。
私の仕事の主題は見い出せたと思えるものの、生涯の主題はどうか。暗中模索が続く……。
略歴 |
昭和22年生まれ |
昭和49年10月 司法試験最終合格 |
昭和50年 4月 司法研修所入所(29期) |
昭和52年 3月 司法修習修了 |
昭和52年 4月 岡山弁護士会入会 |
昭和58年 8月 森脇法律事務所開設 |
重点取扱分野 |
医療事故・福祉事故(医療機関側・福祉施設側のみ) |
民事・家事事件 |
役職 |
弁護士会関係 | 岡山弁護士会副会長(平成3年度) |
公職その他 |
倫理・治験委員会(岡山済生会・岡山赤十字・倉敷中央 他)
理事、監査(岡山済生会・倉敷中央・大原美術館 他)
岡山大学大学院法務研究科 講師
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